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女にはダイヤを 男にはレンズを
世のアマチュアカメラマンの中にはレンズおたくという種族がいるらしい。 メインの被写体でない部分の描写にこだわり、あまつさえ、 それらがどの程度ボヤケて写っているかにこだわり、 そのボケ方がどうの・解像感がどうの・色味がどうのと延々とギロンするのが好きな連中である。
レンズのブランドにはやたら詳しく、 ツァイスがどうの ビオゴンがどうの フレクトゴンがどうの
プテラノドンがどうの チラノザウルスがどうのと日がなやって飽きるところがない。 呆れた暇人どもである。
おもろいのは、こういった連中に限って、 その撮る写真がこれまたお笑いにヘタクソなことである。 メインの被写体でない部分のボケ味にこだわるならこだわるとして、 ならばせめてそのボケ味とやらの美しい描写がなされた写真を発表したらどうだ。 ぜんぶが全部ピンボケならどんなレンズ使ったってイッショやないけ。アホめ。
・・・と、ずう~っと思ってきた。ところが最近ふと気づいたことにはだ。
実はワシは、レンズのメンテナンスをほとんどしない人間である。 ブロワで吹く程度。レンズクリーナーで磨くと言っても、その磨き方を知らんのである。 別にそれほど汚れるものでなし、汚れていなけりゃいいじゃねーかと思っていた。
ところが汚れが見つかってしまった。
ワシが所有するレンズの中では高級な部類に入るトプコン58mm F=1.4が結構きったねー ことを知ってしまったのである。 ブロワで吹いてきれいになるレベルでない。 しょうがないのでクリーナーで拭き取る決意を固めた。
ドキドキであった。
傷つけたらどうしよう落ち込むよなぁ嫌だなぁでもやるしかないなぁ。 おお~っとクリーナー液を専用ペーパーにつけたあっ。 おっとひと拭きしたあっ。 こうなりゃもうやるしかない。
などと、真珠湾攻撃を決断した東条英機もここまではアブラ汗をかかなかったであろう英断でもって、 私はレンズクリーニングを敢行したのである。
さて仕上がってみつめるそのレンズの何と美しいことよ(爆)。部屋に入る一条の太陽光を受けてキラキラ輝いているではないか。 これでワシはなんでも撮れる。世界中を意のままに撮ってみせる。 そう思えてわくわくしてきたのであった。
この、キラキラ光るレンズさえあれば、世界中を掌中にできるかのような、誤解に満ち満ちたキモチ。
これはひょっとすると、女性が宝石・貴金属類に憧れる想いとイッショなのではなかろうか。
ワシは一度たりとて女性になったことがないのでよう分からんが、 美しく妖しくきらめくものを所有し、 それを身につけ世界を歩いている自分を想像することの甘美さは、なんとなくは分かる気がする。 その想像には世界が包みこまれている。のだろう、きっと。
思えばガキのころ、やはりきらきら輝くビー玉が、 このうえなく大切なものに思えてならないことがあった。 太陽に透かして見ると、世界中の光が手の中に集まってきているような感じがした。
小さなガラス玉は、光を集め、ゆらめかせ、ときどき鋭く光った。
レンズおたくと言われる(オレがそう言っているのだが)連中も、 きっとこういう感覚を共有しているのだろう。と思う。 そう思うと、レンズおたくのキモチも分かるような気がしてくるのだった。 光り輝くものは美しく、そこはかとなくく所有欲をくすぐられるものなのだなぁ。
もっとも、ホンモノのレンズおたくは底知れぬ変態チックな情動も秘めているのかも知れんのだが、 そこまでくるとおれはもう知らん。
2005-12-17 23:02:38
- Date : 2008-05-18 (Sun)
- Category : 五年目